※この物語はフィクションであり、実在の人物・事件などには一切関係がありません。
※オルタネイティヴ世界線とは異なる確率時空でのストーリーです。
※参考文献 「MUV-LUV ALTERNATIVE INTEGRAL WORKS」及び「シュヴァルツェスマーケン 殉教者たち」
※©Muv-Luv: The Answer
1992年04月02日 日本帝国・首都京都 斯衛軍衛士養成学校
今日から座学講義が開始される。
空席の目立つ教室であるが、私は玲花と共に最前列に陣取った。
少しでもやる気を見せる為……でもあるし、何より早く戦術機の操縦を体得したいからだ。
予鈴が鳴り、やがて教官が入室してくる。
「起立! 礼!」
日直が号令を掛け、講義が始まる。
今日は我々が戦う相手――異星起源種――についての講義だ。
「諸君、我々が戦う相手についてどれだけ知っている! まだ未知の部分も多いが、『敵を知り己を知れば百戦あやうからず』と言う。BETAとは何の略称だ!」
教官に指名された生徒が答える。
「人類に敵対的な地球外起源種――Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human raceであります!」
「よろしい! では次。便宜上BETAを我々は級で分類している。現在までに存在が確認されている級について説明せよ」
別の生徒が指名され答える。
「光線級、重光線級、要撃級、突撃級、要塞級、戦車級、闘士級です!」
「正解だ! 座って良し!」
教官が続ける。
「最初にBETAが降着したカシュガルにおいて、当初は東トルキスタン及びソ連邦軍は優勢を誇った。何故なら、BETA達は地を這う事しか出来なかったからだ。当然ながら航空機による対地攻撃で一時は優勢を取った。しかし、降着から2週間後。光線属種が出現し、航空機を全て光線で撃墜したのだ。それにより航空優勢を喪った人類は撤退戦を余儀なくされた。ソ連邦の戦術核で文字通り国土を焦土と化しながらの撤退戦だ。従来兵器はBETAの物量に抗し得なかった。そこで開発されたのが、戦術歩行戦闘機――戦術機である。諸君らが、これから搭乗する事になっている人類の新たな刃であり鎧だ。では、最初に作られた戦術機は西暦何年に配備された?」
またも指名された生徒がよどみなく答える。
「1974年、米国のF-4 ファントムであります!」
教官がうなずく。
「米国はすぐに世界へライセンスを供与し、我が国でもF-4を原型とした戦術機が開発された。それが諸君らが搭乗するF-4J ”撃震”である! また一部の者は82式 ”瑞鶴”に搭乗する。我が国が開発した素晴らしい機体だ。――話を戻そう」
教官が教壇を端から端へ移動しながら言う。
「BETAの脅威はまずその物量だ! 奴らの巣であるところのハイヴから、文字通り無数に湧き出してくる。奴らがどうやって増えているのかは今だ解明できていない。性別があるのかすら謎である。今だ人類はハイヴの攻略は出来ていない。こうしている間にも、大陸では激戦が続いている。我が日本からも大陸派遣軍が出撃しているが、戦況は芳しくないのだ。諸君らが戦場に出る時は恐らく日本が戦場になる時だと思われるが、そうならないように大陸での戦況が好転することを祈るばかりだ」
大陸事情は私も良く知っている。1986年に中華民国と中華人民共和国が同盟し――大陸では合作と言う――統一中華戦線が成立した後に東進を始めたBETAとの戦況は芳しくない。今年の年初には中華人民共和国領敦煌及び、ソビエト連邦のクラスノヤルスクにハイヴの建設が確認された。それぞれH13、H14と呼称されている。当然、そこから湧いて来るBETAが新たな脅威となる。チベットは1990年に陥落した。中共も民国も国土の半分近くをBETAに蹂躙されている状況だ。我が満洲帝国は今だ直接の侵攻は受けていないものの、時間の問題とも言える。
教官が言う。
「では、8分。これが何か分かるか? ――愛新覚羅訓練兵!」
指名された私は起立して答える。
「は! 戦術機搭乗員の平均生存時間であります!」
「正解だ! 座って良し!」
私は着席する。
「死の8分! たったそれだけなのだ! 諸君らが8分を越えて生還する事を切に願う。
では、F-4J ”撃震”を基本としたマニュアルに沿って講義を行う。まず1ページ――」
ここからは具体的なマニュアルに沿った講義だ。
電子端末で配布された”撃震”のマニュアルを教官が説明し始めた。
F-4Mのマニュアルとは少し違う気がする。これはこれで新鮮だ。
そして、玲花は熱心にマニュアルを読んでいる。
科学的好奇心と言う奴だろう。
やがてその日の講義は終わった。
この後は体力作りのための持久走が待っている。
私は基礎的な運動は問題無いが、玲花が心配だ。
彼女はあまり運動が得意では無い。
「玲花、次の授業は見学するか?」
「いえ殿下。出来る限り参加します」
「そうか、無理はするな。玲花は搭乗員になるわけでは無い。
むしろ特別授業で整備の講義を受ける方が良いと思う。教官に進言しておく」
「ありがとうございます殿下。訓練機の整備をされている方がいらっしゃるでしょうから、座学以外はそちらを受ける方が良いかもしれませんね」
「だろう。早速教官に話して、変えてもらおう」
そして私の提案は受け入れられ、体育の講義の時間、玲花は整備の講義を受ける事になった。
うん、これが最善だろう。
◇ ◇ ◇
体操着に着替え校庭に出る。
一周400メートルのグラウンドを10周することが持久走の目標だ。
合計4キロメートル走ることになる。
「全員整列!」
教官が叫ぶ。
私達は教官の前に整列して並んだ。私は背が低いので最前列である。
日本においては、整列をまず最初に小学校で学ぶらしい。
私は学校に通ったことはないので新鮮だ。
全員が整列したのを見計らって教官が言う。
「これより持久走を行う。制限時間は設けないので、全員グラウンドを10周せよ!」
指示に従って級友達が持久走を開始した。
私は級友達より年下であるため、身体能力で劣るところがある。
無事に完走出来るか分からない。
私は体術などは鍛錬してきたが、ランニングなどの基礎体力向上の訓練はやっていないのだ。
どこまで出来るか……。今はとにかく走り始めてみよう。
一周目。まだ余裕がある。
三周目。息が上がってきた。他の級友達も辛そうにしている者が見え始める。
五周目……やっと半分だ。身体が重くなってきた。
八周目……だいぶ限界だ。足がもつれ出してくる。早い者はもう完走して休んでいるようだ。負けじと走らねば。
玲花を走らせなくて良かった。彼女ならば二周で限界だっただろう。
益体もないことを考えながらでないと辛い。
九周目……ほとんどの級友達がゴールしている。私は周回遅れくらいだ。あと一周なら何とかやれる……!
そう気合いを入れ直して走る。
そしてようやく十周目のゴールが見えてきた。
「ハルカさん! あと少しですよ!」
「頑張れー!」
級友達が励ましの声を掛けてくるのが聞こえる。
どうやら、私が最後らしい。
そして、ようやく十周目が終了した。倒れるようにへたり込む。
級友達が私を取り囲んで心配そうに様子を見る。
「……大丈夫です。少し休ませてください」
私はそう答えるのが精一杯だった。
やはり級友達より幼い為体力では負けている。
現実を見せつけられた思いだ。
明日から、基礎体力向上の為のトレーニングをしないと駄目だ。
改めてそう思った。
1992年05月08日 日本帝国・首都京都 斯衛軍衛士養成学校
「機体確認を開始します……右脚部異常なし」
機械音声が淡々と告げる。
私は今、F-4J ”撃震”の操縦席にいる。
座学の一環として、実機を交代で体験することになったためだ。
「――頭部異常なし。全て正常です。”撃震”起動可能です」
私は教官に指示された通り、衛士強化装備の間接思考制御を利用して”撃震”に告げる。
「主機起動。駐機姿勢へ移行せよ」
「主機、起動しました。駐機姿勢へ移行します」
命じたとおりにに”撃震”が片膝を突く。
ここまではマニュアル通りだ。
「良し! そこまで。愛新覚羅訓練兵、主機を停止して機体を降りよ!」
教官が通信で告げる。……ふう、上手く出来ただろうか。
搭乗ハッチを開け、管制ユニットが外部に露出する。
管制ユニットからワイヤーを下ろし、私はハンガーの床に降り立った。
77式気密装甲兜を脱ぎ、息を吐く。
兜――いわゆるヘルメット――から解放された感覚は新鮮だ。
「次! 急ぎ準備せよ!」
教官が指示する。待機していた生徒から次の者が搭乗していく。
「殿下、上出来です」
玲花が側に来て嬉しそうに言った。
「ありがとう。整備の勉強は進んでいるか?」
「はい。整備技師長からも良くしていただいております」
「それは良かった。作業着も似合っているぞ」
「……殿下も訓練兵用強化装備に慣れましたか?」
「それは言わないでくれ。いくら戦場では恥ずかしさは無用とは言うが、これに慣れてしまうと大切な何かを失う気がする……」
そう、訓練兵用の強化装備は胴体の部分が全て透けているのだ。
いくら女子が多いとは言え教官は男性だし、少ない男子の目も気にならないと言えば嘘になる。
「……最後! 崇宰訓練兵!」
あの男が搭乗するのは、82式 ”瑞鶴”だ。
専用機が用意されている者はそちらで訓練を行う事になっているため、専用のハンガーが用意されている。
「玲花。”瑞鶴”は整備で触ったことはあるか?」
「いえ、殿下。”瑞鶴”に搭乗される方は、お抱えの整備兵を連れて来ております。私が触れるのは共用の”撃震”だけです」
「そうか、やはり武家は違うのだな。郎党ごとお抱えだろうからな」
「でも、我が帝国で運用されているF-4Mの整備に慣れるには”撃震”の方が近いので丁度良いですよ」
「そうだな。確かにその通りだ」
玲花と話し込んでいるうちに七生の番は終わっていた。実にそつなくこなしていたようだ。
見るとはなしに七生の方を見ると、兜を脱いだ彼と目が合った。
七生は何故か右手の親指を立てて、「よい仕事だ」みたいな仕草を返してくる。
正直反応に困ったが、私も同じ仕草で返しておいた。
「全員集合!」
教官の声で全員が整列する。
「皆良くやった。ここまではマニュアル通りにやれば良いので、誰にでも出来るはずである! 明日からはシミュレータを使った訓練となる。実機訓練ではないので死ぬことはないが、気を抜かずにやるように! では解散!」
生徒達は三々五々更衣室へ向かい始める。
今日は実機に搭乗することが出来た。シミュレータでの訓練も楽しみだ。
私は意気揚々と着替えに向かった。
次:M-M第五話
投稿者プロフィール
- サークル幻色灯代表にして雑用係。
専門はプログラミング。趣味はTRPGとPCゲーム全般。
読書は手当たり次第に読むタイプ。本棚がカオス。
コメント