※この物語はフィクションであり、実在の人物・事件などには一切関係がありません。
※オルタネイティヴ世界線とは異なる確率時空でのストーリーです。
※参考文献 「MUV-LUV ALTERNATIVE INTEGRAL WORKS」及び「シュヴァルツェスマーケン 殉教者たち」
※©Muv-Luv: The Answer
1993年02月11日 日本帝国・首都京都 斯衛軍衛士養成学校
正月も過ぎ、春節も過ぎた。
満洲では春節前後が大きな休日となっており、1993年には1月30日が正月だったのだ。
派手に爆竹を鳴らし新年を祝っていた事だろう。
……しかし大陸の戦況は日増しに悪くなっていく。
満洲帝国の民はいかに毎日を送っているのかと思うと、気がかりでしょうがない。
今日は紀元節。日本帝国の建国を祝う日。
訓練校の生徒達は講堂に集められ、帝国の建国を祝う式典に参加させられる。
「我が帝国は皇祖――」
校長の演説が続く。
我が帝国も、毎年3月1日は建国節として祝日になっている。
とは言え、日本帝国と違い、1932年の建国からまだ61年しか経っていないのだが。
皇紀はすでに2652年だ。それに比べれば我が帝国はまだ新興で有る事は否めない。
我が帝国も100年、1000年と続いて欲しいものだ。
民あっての国という信念を忘れずに居たいものである。
一時間ほどで紀元節の式典は終わった。
後は自由時間であるが、私には特にやることも無く。
仕方なしに食堂に行った。
冬の寒さが堪えるが、新京の寒さにくらべれば大した事は無い。
食堂では、暇を持て余している生徒達が談笑しているのを見つけた。
「あらハルカさん、紀元節の式典はどうでした?」
一人の生徒が声を掛けてくる。
「日本帝国の歴史に圧倒されました。我が帝国はまだ60年ちょっとの歴史しかありませんので、2600年になんなんとする日本帝国の伝統に比べればまだまだと感じましたわ」
「大清帝国から数えれば、満洲帝国も400年くらいの歴史はありましょうに。そこまで卑下することは無いかと思いますが」
「満洲帝国は、大清帝国の復辟ではないのです。一度途絶えているのですから、それを
勘定に入れてはいけないと思います」
「そうですか……。それはともかく、よろしければ一緒にお話ししましょう」
「ええ、良いですよ。……お邪魔します」
生徒達は、他愛のない話に興じ始めた。
戦場に出るための訓練をしているが、そこはやはり年頃の女子。
自然に誰それが気になるだとか、次の休日に逢い引きをするだとかと言う話になってきた。
「そう言えばハルカさん? 七生さんとはどうなっておりますの?」
私は口に含んでいたお茶を吹き出しそうになった。
何故そうなる!
「……どうして彼の名前が出てくるのですか! 只の顔見知り以上では無いと言ったはずです!」
「ムキになって否定するところが怪しいですわよ」
「例の剣術試合以来、偶に二人でいるところ、結構見ますわ」
「偶に難しい顔をして話しているのも見ました」
いけない、これは話せば話すほど沼にはまってしまう……。
「そ、そんな事より大陸事情のお話でもしません? 先日春節を」
「誤魔化しても無駄ですわよ。もっと七生さんのお話聞きたいですわ」
「そうそう、どこまで進んでいますの? もう逢い引きされました?」
「だーかーらー! そう言う関係ではありません!」
「お家柄としても問題無さそうですのに」
「我が帝国の皇位継承は愛新覚羅家の男系であることが決まっているのです! だから私の夫となる人は愛新覚羅家の血を受け継ぐ男性であることが求めら」
「そうは言っても、このご時世ですから何時血が絶えるか分かりませんわよ。そうなったらどうされるのです?」
「……憲法に書かれているから、私の一存では変えられ……いやそうじゃ無く。どうして彼と私をくっつけようとされるのです!」
「だって、その方が面白いんですもの! きっとお似合いですわよ」
それから、しばし私を肴にして恋愛談義が続いた。
その間の私は死んだ魚のような目をしていたと思う。
1993年08月05日 日本帝国・京都府 竜宮浜海水浴場
臨海学校という物があるらしい。
日本では普通らしいが、新京では海その物が遠い為そういう習慣は無かった。
もちろん訓練校の教練には水泳も含まれているので、私も泳ぐことは出来るのだ。
学友と共に海へ行くという機会は、私の一生でまたとない機会である。
数日前から気分が高揚した。
日本帝国海軍の舞鶴鎮守府より日本海側の竜宮浜海水浴場が今回の目的地だ。
京都からバスに揺られ、目的地を目指す。
なお、玲花は整備の集中講義を受けるため今回は欠席である。
女生徒達は水着の話題で持ちきりだ。
私は味も素っ気も無い、訓練校の購買で買った水着なのだが。
そもそも新京で泳ぐことはほとんどなく、水着その物を持っていなかったと言うのもある。
数少ない男子生徒達は、鼻の下を伸ばして女生徒達の話に聞き入っているようだ。
気持ちは分からんでも無いが、それでいいのか男子……。
「ハルカさん、ハルカさん! 貴女はどんな水着を着られるのです?」
一人の女生徒が聞いてくる。
「……えーっと。購買で買った水着ですが」
「まあ、それは少々マニアックでは無くて?」
「貴女方も教練では来てましたでしょうに」
「それはそれ。折角の臨海学校ですのに、オシャレしなくてどうします!」
「私の貧相な身体じゃ意味ないですよ」
「それが良い、と言う紳士もいらっしゃいます。もっと自信を持って! さあ!」
「今から選ぶことは出来ません……出来ませんよね?」
「ふっふっふ。こんな事もあろうかと、用意しておきました」
「うわ、これ紐じゃ無いですか! こんなの私著られません。それに何時私の服のサイズを知ったのです!」
「それは秘密です☆」
結局、購買の水着と言う事に落ち着いたが……。
いくら訓練用強化服が透けているから、恥じらいは無用と言っても限度があるのだ。
そんな騒動はさておき。
宿舎にバスが到着すると、部屋に荷物おいてロビーに集合。
合宿の心得などを一通り説明された後、本日は自由行動となった。
明日からは水泳や持久走の訓練があるらしい。
ここぞとばかりに、男子も女子も水着に着替えて海水浴場へ向かった。
折角なので私も水着に着替え、バスタオルを羽織って海辺へ向かう。
砂浜では、先に到着した級友達が既にはしゃいでいた。
男子達は……砂浜で女子達を眺める事に決め込んだらしい。
一番の場所にシートを敷いて女子の水着姿を堪能しているようだ。
「殿下! こっちこっち!」
七生の声が聞こえる。男子達のシートに陣取っているようだ。
折角なので誘いに乗ってみる。
「何だ? 何か良い物でもあるのか?」
「いえね。折角の臨海学校なので、ラムネを冷やして持って来ておりまして。一緒にどうです?」
「ちょうど喉が乾いていたところだ。ありがたく受け取ろう」
七生からよく冷えたラムネを1本もらう。
既に栓は開けてあったので、そのまま口を付ける。
炭酸の刺激が心地よい。
半分ほど飲み乾して一息。
「君達は泳がないのか?」
素直に聞いてみる。
「いやあ、ここで女子の艶姿を眺めている方が楽しくて。明日の教練は結構きついんですよ。体力温存しておいた方が良いです」
他の男子もうんうんとうなずいている。
「教練は、何をやるのか?」
「まず砂浜で持久走を4kmほど。その後水泳を往復で1kmほどですね」
整地じゃなくて砂浜でか……。それは辛そうだ。
「座っても良いか?」
「ええ、どうぞ。こんなところで良ければ」
クーラーボックスの横に座る。
残りのラムネを飲み干した。
「……済まぬ。もう1本貰えるか?」
「ああ、これは気付かなく申し訳ない。まだありますからどうぞ。男子達だけじゃ飲みきれませんからね」
「ではありがたく貰おう」
日差しは煌々と照りつけ、海は寄せては返す波の音が心地よい。
日本海を隔てた大陸では激戦が続いているのが嘘のようだ。
我が帝国領までは戦火が及んでいないものの――それも時間の問題だろう。
「殿下。また難しい顔をしていますよ?」
七生が言う。
「――大陸の戦火の事を考えていた。もう中共は失陥寸前。民国も劣勢だ。日本からの大陸派遣軍も酷い事になっているのだろう? そんな事を考えるとこうして楽しんでいて良いものかと思ってな」
「だからこそですよ。楽しめるときに楽しんでおかないと、散っていった英霊達に申し訳が立たない。僕らは本当ならまだ学生として青春を謳歌して良かったはずなのです。ただ、時制が許さなかった。憎むべきはBETAです。正直に申せば、僕ら斯衛は将軍殿下をお守りするために存在しているので、日本本土が戦場になるまで出動はありません。僕らが出動するときには、既に朝鮮半島が陥落しています。そして恐らく満洲帝国も……。僕はそうならないようにに祈るだけです」
「そうだな。な、七生にそう言ってもらえると気を引き締めねばと言う気持ちになる。私も楽しもう」
「楽しんできてくださいな。……初めて名前で呼んでくれましたね、殿下」
「い、言うな! 君との付き合いも長いんだし、良いじゃないか!」
私は七生の返答を聞かずに、女子の輪に入って行く。
めざとい女子が言う。
「ハルカさん? 顔が赤いですわよ? 何かあったので?」
「い、いえ、何でもありません。私も仲間に入れてくださいな!」
ごまかすように早口で答える。
「では、定番のスイカ割りをやりましょう! ちゃんと昨日買ってきておいたのですよ!」
それから私達はスイカ割りで盛り上がった。
終わった頃にはヘトヘトだ。
はしゃいだ反動で、翌日の教練が辛かった事を付け加えておこう。
次:M-M第八話
投稿者プロフィール
- サークル幻色灯代表にして雑用係。
専門はプログラミング。趣味はTRPGとPCゲーム全般。
読書は手当たり次第に読むタイプ。本棚がカオス。
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