※この物語はフィクションであり、実在の人物・事件などには一切関係がありません。
※オルタネイティヴ世界線とは異なる確率時空でのストーリーです。
※参考文献 「MUV-LUV ALTERNATIVE INTEGRAL WORKS」及び「シュヴァルツェスマーケン 殉教者たち」
※©Muv-Luv: The Answer
1994年07月01日 満洲帝国首都・新京 皇帝執務室
威徳大隊の錬成開始から半年が過ぎた。
最初はぎこちなかった大隊員達も徐々に操作に熟達し、作戦を任せる事が出来るところまで来た感じがする。
しかし、BETAの大軍を前に果たして恐慌に陥らないかが懸念事項だ。
もう一つ頭の痛いことがある。美国からの嚮導要員との文化的な衝突である。
彼等は我々を見下している。それも露骨に。
流石にクリフォード中校は歴戦の戦士で、本国で中佐にまで昇進するくらいの人物だ。なので問題は無いのだが。
問題は他のメンバーだ!
女性衛士の身体を触ったりする奴、露骨にChinkと蔑称を使ったりする奴。
こいつらに背中を預けて良いのか? と言う気持ちになる。
だが、戦歴は奴らの方が上。今は我慢して技術を習得する時だ。
皆、済まん……今しばらく耐えてくれ。
さて、本日は着艦訓練の日だ。
黄海上で我が帝国海軍の誇る航空戦艦海威と海王へ着艦する予定となっている。
それぞれ、4機の戦術機を格納出来る様に改造が施されているので、いざという時の母艦機能も持っているのだ。
戦艦は航行しているので、移動する目標へ着陸しなければならない。
空母の艦載機乗りは相応の練度が求められる。
我々もそれにならって、いざという時の為に訓練が必要なのだ。
「陛下、訓練の時間です」
「分かった、すぐに向かう」
さて、気を抜かない様にしなければな。
同日 黄海上空
「威徳02より各機、これより着艦訓練を開始する。承知の通り、海威や海王は航空戦艦である。
通常の空母と違い、全通甲板では無い。艦橋や構造物に衝突しないように最新の注意を払え!
まず、威徳13が手本を見せる。威徳13、準備は良いか!」
「Sir, Yes Sir! 威徳13了解!」
編隊を離れて、F-14に搭乗した威徳13が海威へ着艦を開始する。
彼は美国時代も空母に配属されていたと言う。
その動きに迷いは無く、滑らかに海威の後部甲板へ着艦して見せた。
見事なものだ。
「威徳13、着艦完了であります」
「よろしい、各機。続く者は居るか?」
「こちら威徳03。自分がやってみます」
「威徳02了解。やってみろ」
七生が名乗り出た。
大丈夫だろうか……。はっ、私は何を考えているのだ……。
七生の”瑞鶴”が着艦態勢に入る。
跳躍ユニットを調節して、着艦前に逆噴射を書ける必要があるのだが。
果たして、七生は上手くやった。
威徳13の横に首尾良く着艦できたのだ。
少し間違えたら海没していたところだったが、彼の技量はそれをこなして見せたのだった。
「威徳03、着艦完了」
ほっと胸をなで下ろしている自分がいる。
その後も訓練は続いた。操作を誤って海没した者もいたが、海威のクレーンで引き上げられて無事だ。
何とか訓練は終わった。
36機欠けること無く済んだのは僥倖と言える。
これを繰り返せば、海上から戦場へ赴くことが出来る様になる。
輸送艦からの発艦と言う選択肢が出来る事は、これからの我が帝国に取って大きな利点だ。
また一つ、生存への選択肢が出来た事を今は安堵する時だろう。
同日 満洲帝国首都・新京 皇帝執務室
「本日、北京へ向けて大規模のBETA群が迫っているとの発表が統一中華戦線より発表されました。国連より提供された観測衛星の情報によれば、敦煌ハイヴより多数のBETA群が東進を開始。三ヶ月以内に北京近郊へ迫る模様との予測が成されました。統一中華戦線は南北共同による作戦を開始する模様で、旧大同市郊外にて――」
訓練が終わり、やっと個人の時間だ。何とは無しにTVを点けると、満洲中央電視台が21時のニュースをやっていた。
大陸戦線は更に悪化の一途を辿っているようだ。
先日、インド亜大陸もBETAに制圧された。
既にユーラシア大陸はそのほぼ全てがBETAの制圧下にあると言って良い。
このままでは北京陥落も時間の問題だろう。
南は長江のお陰で若干遅滞できているが、既に武漢や長沙は制圧されている。
南京や上海にBETAが迫るのもやはり時間の問題だ。
このままでは、我が帝国領にBETAが迫るのもすぐだろう。
何とかしたいが、今は練兵で精一杯。
しばし思案にふけっていると、扉をノックする者がいる。
「誰か?」
「玲花です、陛下」
「入れ」
玲花は私の前で敬礼をした。
「ふむ……”大元帥”の用事か?」
「は! 明朝開催される国防会議への参加依頼です」
「それで、何時からか?」
「明朝8時より国防総省大会議室で開催されます」
「議題は……ああ、良い。だいたい察した。それで、私に何をしろと?」
「陛下には、10月に実行される統一中華戦線主導の作戦にオブザーバーとして参加して欲しいと、軍事顧問団から要請が出ているようです」
「美国の要望……いや、単に現実を見せる為とも言えるか。それで、他に何か?」
「随行員として、クリフォード中校と崇宰少尉が同行する事になっております」
「……分かった。下がってよし」
「それでは失礼します」
再び敬礼して部屋を辞す玲花。
しかし、これはまたとない機会だ。
実際に戦場に立たないとは言え、現実を見ることが出来る。
私は不謹慎ながら、作戦が開始されるのを日待にする様になった。
1994年10月01日 中華人民共和国 首都 北京郊外 陸軍司令部
中共の国慶節に合わせて発動された十・一作戦。
北京より西方の旧大同市郊外の平野を選んで会戦が企図された。
ここを抜かれると、北京まで遮る物は無い。
作戦の失敗、即ち北京陥落が現実の物となるのだ。
その為既に避難民が天津や山海関を目指して大挙している。
今回の会戦に動員された兵力は次の通り。
統一中華戦線戦術機8個大隊。
そのうち1個大隊が新型機の殲撃10型になっている。
大々的に実戦に投入されるのはこれが初めてだ。
日本帝国大陸派遣軍1個大隊。
ほぼ全てがF-4J。
駐満美軍1個大隊。
F-14で固められている。
歩兵10個師団に砲兵旅団が3個。
機甲部隊が2個師団。
さらに我が帝国が誇る満鉄の装甲列車を数両北京郊外へ待機させている。
戦艦の主砲並みの飛距離と威力がある砲撃が出来る様にしているのだ。
昨年の九・六作戦での痛手を受けて全体的な兵力は減っている。
現状用意できる最大の兵力をもって会戦に挑むのだが――。
しかし、司令部の雰囲気は最悪だ。
居丈高に振る舞う美国のオブザーバー。
事あるごとに対立する中共と民国の将官達。
そのせいもあって、私達は半ば放置気味だ。
これで本当に勝てるのか……。
「これより十・一作戦を開始する――砲撃開始!」
中共代表の司令官――階級は中将――が宣告する。
作戦の流れは早朝のブリーフィングで聞いた。
今回も九・六作戦と同様、光線級吶喊の後砲撃と空爆で殲滅する想定で作戦が立案されている。
とにかく確認されている光線級を殲滅しない限りは、砲撃が意味を成さないため最優先事項だ。
まずは砲兵が重金属をばらまくために砲撃を開始する。
モニターで確認出来る限り、第一次世界大戦もかくやと言った入念な準備砲撃だ。
「重金属雲の展開、完了しました」
司令部のオペレータが告げる。
「よし、三路大隊出撃! 光線級吶喊を開始せよ」
「今度は上手く行くのでしょうな? 九・六作戦の時の様な失態は許されませんよ?」
民国代表が嫌味を言う。
「失敗などありえん! 最新鋭の殲撃10型と最精鋭を動員しているのだ! それよりも三路大隊の後方支援は問題ありませんかな!」
「我が国の部隊も精兵を用意しております。お任せください」
「三路01よりCP。これより重金属雲下に入るため通信に支障が発生する。現在進行に問題無し」
「CPより三路01、予定通りに進められたし」
「――(ノイズ)三――(ノイズ)――解――」
大画面のモニターには戦況図が刻々と移り変わっている。
重金属雲下に入った三路大隊のアイコンはunknownになってしまった。
固唾をのむ一同。
永遠とも思える20分が過ぎた。
「――(ノイズ)三路01よりCP! 全ての光線級の始末が終わった! これより現区域を離脱する!」
司令部に歓声があがる。
「良し! 砲撃開始。M-01よりM-04まで異星起源種共にありったけを叩き込んでやれ!」
M-01は我が帝国の装甲列車のコードだ。
やっと活躍が出来るのだ。少し誇らしい。
「M-01よりCP! 砲撃準備よろし。目標の座標を送られたし」
「CPよりM-01。BETA梯団の中心はX-14からX17、Y-06からY-09」
「M-01よりCP。諸元了解。M-02よりM-04へ。座標設定完了次第砲撃開始!」
別途設置されたモニタから装甲列車の動きが見える。
M-01よりM-04が砲撃を開始した!
今回用意された砲弾は所謂クラスター弾だ。
中空で破裂し、小型の弾頭を周囲にばらまく。
面制圧にはとても都合の良い砲弾だ。
光線級さえ居なければ、人類の兵器はまだBETA共に通用する。
「M-01よりCP! 弾着、今!」
装甲列車が放った砲弾が炸裂する。
司令部のモニタに映ったBETAのアイコンが次々に消滅していく。
「CPよりM-01。砲撃結果確認。先頭BETA梯団の3割が消滅した模様。続いて次射の準備へ」
「M-01了解。――次弾装填急げ!」
私は胸を撫で下ろす。
……今度は勝ったか?
「気になります、陛下」
「なんだ七生?」
「昨年の九・六作戦時、BETAは地中進行して側面を突きましたよね? その時の坑道は埋められているのですか?」
「埋める人手は無いから、センサーの類で監視しているとは思うが……」
「僕はBETAには学習能力があると思っています。念の為、監視衛星のデータを再確認した方が良いのでは、と思います」
「済まん、私達はオブザーバなのだ。作戦指揮に口を挟むことは許されていない」
「何か、嫌な予感がするんです。上手く行き過ぎているような」
「M-01よりCP。二射目の準備完了。座標を送られたし」
「CP了解。――座標はY-10よりY-12。X軸はそのまま。以上」
「M-01了解。……二射目砲撃開始!」
二射目がBETAへ飛来する。
またもBETA梯団を殲滅できた! これで先頭梯団の7割は吹き飛ばした事になる。
「振動センサーに感! 旧石家荘方面の坑道より多数のBETA反応あり!」
「何だと! また側面を突いてきたのか!
中共の司令官の顔が青ざめる。
「衛星画像を回せ! 光線級は居るのか!」
「主モニタに回します」
そこには、数千を数えるBETA群――さらに要塞級が数体確認された。
要塞級が居ると言うことは、光線級が体内に潜んでいる可能性が高い。
「何故今まで確認出来なかった! センサが故障していたのか!」
「いえ、先日の残党狩りの際に壊れた物が修復できていなかった可能性があります」
「どうするのです? 総指揮官殿。折角用意したF-14は無用ですかな?」
美国のオブザーバが嫌味たっぷりに言う。
今はそんな時では無かろうが……これだから白人共は!
「三路01へ繋げ! 急げ!」
「――こちら三路01。状況は把握しております。しかし、我が隊も補給しなければ戦闘継続は不可能です」
「補給用のコンテナは既に用意している。道中補給したまえ! 補給が完了次第光線級吶喊を再度実行するのだ。これは党の命令である!」
「三路01了解。これより再度の光線級吶喊を開始します」
「砲撃中止! 各戦術機部隊は側面に現れたBETA集団へ攻撃を開始せよ!」
総司令官ががなり立てる。
そして正面BETA群を迎撃する部隊と新たに現れた側面BETA集団へ部隊が2分され、次の攻勢が開始された。
正面攻勢は全く問題無く進行している。
側面への光線級吶喊はどうなのか。
「三路01よりCP! 側面BETA集団の突破は不可能。支援を要請する」
「CPより三路01。側面へ24師が向かっている。しばらく持ちこたえられたし」
「三路01よりCP。10分が限界だ! なんとかやってみる」
重金属雲が無い状態でBETA群を突破し、光線級へ辿り着けるのか。
三路大隊のアイコンが一つ、また一つと消えていく。
正面は優勢なのだが、やはり光線級が居る側面は被害が大きい。
このままでは、また九・六作戦のように失敗するのか……。
「これは……我々も撤退する準備を始めておきましょう」
クリフォード中校が告げる。
「僕もそう思います。出来れば装甲列車も引っ込めた方が良いかと」
「そうは言っても、現在装甲列車は総指揮官の管轄だからな……かなり後方に控えているから逃げ遅れることはないだろうが」
戦況は悪化する。
「三路01よりCP! 部隊の損害が多すぎる! 弾薬も残り20%を切った。これでは光線級吶喊は
実施不可能! 作戦の再考を求む」
「これまでか……全戦術機部隊に告げる。現座標を離脱し後方へ帰還せよ。十・一作戦は失敗だ……」
先程までの高揚はあっと言う間に落胆に変わった。
「それでは、我々はお先に失礼」
美国オブザーバが冷酷に告げる。
中共の総指揮官は苦い顔をした。
「生き残り部隊は天津へ誘導せよ! 何機残っている!」
「約半数が残っております。再編成すれば、後日再攻勢は可能かと思われます」
「補給と整備を急がせるのだ! 北京が陥落しても良いのか!」
「済みませんが、我が国の部隊は撤退しますよ」
民国の将官が告げる。
「何だと! 我々を裏切る気か!」
「いえ、そういうつもりはありませんが。ただ、南方でも重慶にハイヴが確認されておりましてな。段々圧が強まっております。ここで戦力を消耗するわけにはいきませんので」
中共の総指揮官は卒倒寸前だ。
このままでは、頼りの戦術核も使えまい。
結局、十・一作戦は失敗に終わった。
我々は後方だったから無事に帰国することが出来たが、最終防衛線の歩兵はほぼ全滅したらしい。
◇ ◇ ◇
「人民の皆さん! 我が共和国は北京の陥落により南京へ遷都します。決して諦めてはなりません! 党の指導の下、南北の人民が協力すれば必ずや――
――1994年10月26日、南京にて中国共産党首脳の演説」
次:M-M第十二話
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