塔で女の子を拾った。
ボロを着て……いや、その砂で汚れた体に巻き付けて。
眼はブラウン。
ただ、その目のハイライトは消えている。
洗い、髪をまとめ、軽く化粧をすれば、もっと映えるだろう。
いや、俺の主観ではなく、こいつを見るほぼ全員がだ。
そう。
それだけの素質と才を持った少女であった。
そこは天まで届く塔と言われる塔。
超常には神が待つとも。
いや、一説には悪魔がいるとも噂される。
いずれにせよ、一筋縄ではいかない化け物がこの塔の首領なのだろう。
人がその祈りを直接神へと届けようと思いついたのが発端と言われる。
だから、この塔の下層部はバカのように巨大で、その中部も太く、頑丈に。
石材とレンガを使った巨大な建造物なのだ。
人々は乾季に農耕の手を止め、塔づくりに精を出す。
太守から給与……パンと乾燥果実とビールが出るからである。
そう。
ここの人々は太守に無理やりこのバカげた計画に乗っ取った塔を気付いているわけではない。
皆、率先してこの塔を作り上げ、戦神イシュタルの言葉を直接聞きたいと思っているだけなのだ。
と、俺はウルの都で酔いの回った吟遊詩人に聞かせてもらった。
歌と演奏が小休止し、マナーも何もへったくれもない少女の食事も終わったことだ。
俺は銀貨を弾く。
吟遊詩人がオーバージェスチャーで礼をする。
銀貨は彼の帽子に収まった。
するとなんだ、俺のシフを合図に吟遊詩人の帽子はすぐに金銀で埋まったのである。
うん、物語は素晴らしい。
そう、冒険の匂いがする。
血沸き肉踊り、世界の謎に挑み、この俺もいつか必ず世界に名を刻んで見せる。
と、俺はビールを飲み干すと席を立つ。
金貨を一枚卓に置き、腰に佩いた剣を鞘の上から軽く叩きつつ、軽い金属音に満足しながら酒場の出口のスイングドアへ向かったのである。
と、そのぼろを着た少女が俺の後ろをついてくる。
一杯粥を奢っただけなのに。
まあいいさ。
旅は道連れ。
ああ、いつまでも名無しはないな、「あ」という名前でもない。
まず、こいつの呼び名を決めてやれば少しは愛着も湧くだろうか?
俺はそんなことを想い、街の大路を歩き出す。
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