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「妹より優れた神などおらぬ!」 SW2.0 堕女神ユリスシリーズSS

幻色灯日記

「小説家になろう」及び「カクヨム」運営の記載許可が得られなかったので、この場でSSを発表します。以下、宜しければお楽しみください。

堕女神ユリスの奇跡L

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「妹より優れた神などおらぬ!」
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 ここはしがない酒場のカウンター。俺はただ一人、ただチビチビと一人で静かに飲みたいだけなのに。

「あははははは!」

 飲み過ぎだろう。
 やおら俺の隣の席に現れた、流れるような金髪のエルフの姉ちゃんが飲み始めたと思ったらこれだ。
 飲むわ飲むわ。
 飲み出したら止まらない。先ほどから姉ちゃんが浴びるように飲んでいるのは「ドワスレ」。「ドワーフスレイヤー」と呼ばれるきっつい蒸留酒だ。それをストレートで飲んでいる。何者だろうか、この姉ちゃんは。
 ホラ見ろ。後ろのテーブル席で騒いでいたドワーフ連中までもが呆れている。酒好きのエルフ。実に珍しい存在と言えよう。

「妹より優れた神などおらぬ! ザイア神バンザーイ!」

 エルフの姉ちゃんの奇声と共に、またもグラスの中の琥珀色の液体が揺れた。姉ちゃんが着込んでいるごつい魔道鎧が金属質の音を立て鳴る。そして何より物騒なのは、腰に佩いている一目で判る魔剣だった。正直、怖い。

「おい、聞いているのはおまえは」

 酒乱だ。しかし美形としか言いようのない青い目が俺を射抜く。その目は明らかに座っていて、とても正気とは思えない。
 見たところ、騎士神ザイアの神官戦士。いや、その胸に輝くザイアの聖印の示すとおり、この姉ちゃんは本当にどこかの騎士様なのかもしれない。だけど今は、ただの酔っ払いだった。

「私の兄はな、凄いんだ。どのくらい凄いかと言うとな、生ける神に仕えるほどなんだ」

 生ける神。このラクシア世界では地上に降臨している神も多いと聞く。その殆どが地方の小神(マイナーゴッド)だ。どうにもこの姉ちゃんの兄貴はその小神に仕える神官らしい。どうやらこの姉ちゃんは兄貴をその小神に取られたと感じているようだった。まぁ、嫉妬である。
 俺は延々とそんな、彼女の御託を聞かされた。

 誰か、助けて。本音である。いくら相手が美人さんといえど、これは無いと思えた。

「だから私は誓ったのだ。私は神になる! 神となりあんな小娘に走った兄を見返してやるのだ! 妹最高! 妹バンザーイ!!」

 極度のブラコンらしい。かなり屈折しているようだった。
 しかし彼女、この姉ちゃんは美人さんだ。それもめったにお知り合いになれないレベルの。俺は逃げたいと思う反面、どこか彼女と付き合いたいと思っていた。その結果がこれだ。
 ……逃げる機会がない。それはとっくの昔に失われてしまった俺の選択肢だ。

 どうしてこうなった。
 いや、俺の心の弱さが原因か?

「お前が求めるのは真実か? それとも愛か?」

 何の話なのだろう。

「わたしはただ兄に振り向いて欲しいだけなのに、兄はバカだから私の気持ちに気付きもしない。いや、むしろ兄妹だからそう思うのかもしれない」

 まぁ確かに。禁断の愛と言う奴だな。うん。

「だが、それももうひと時の辛抱だ! わたしは近いうちにきっと第四の剣を見つけそれに触れる! 神になるのだ! その時、あの愚かな兄は偉大なる妹の前に膝を屈するであろう! 妹バンザーイ!!」

 捻じ曲がっている。最早狂気だ。
 惑乱の淑女。いや、姫騎士様。そんな形容が今の彼女には良く似合う。

 その笑顔はあくまで明るく、朗らかで。
 だけどその口からは酔っ払いの戯言が。

「あははははははは!」

 酒場に響き渡るのは姉ちゃんの哄笑。迷惑を被っているのは俺だ。

「こんな所におったか我が使徒候補よ。ザウが心配していたぞ」

 そんな声が聞こえた。振り向くと、これまた美形な少女がいる。
 金の髪。緑の瞳。その華奢で未発達な体を包むのは古風なトーガだ。
 どこかの貴族のお姫様だろうか。実に場違いな客だった。

「ジェラルディン。いや、ジャリルデン=エラーよ。そなたは飲み過ぎだ」
「はっ……」
「『はっ』ではない! しっかりせよザイアの小僧っ子の使徒よ!」

 少女が姉ちゃんを指差してむくれる。その姿は実に様になっていた。

「か、かわいい……ツンな女神様、かわいい……」

 姉ちゃんが振り向く。
 少女の顔に「しまった」と書いてある。この少女は知らぬ間にこの姉ちゃんの何か押してはいけないスイッチを押してしまったらしい。

「我が敬愛する女神様。今夜も実にかわゆうございます……」

 そして掴みかかる。瞬く間に少女は囚われた。とても酔っ払いの動きとは思えないすばやく正確な動き。やはりこの姉ちゃん、只者ではないのだろう。

「はなせ! ええい、放せと言うに!」
「かわいい……かわいいは正義……正義は妹! 正義こそは妹! 妹バンザーイ! あはははははは!」

 少女は姉ちゃんの腕の中でじたばたと暴れていた。

「我は神だぞ!? 離さんかこの不敬者! そなたの誠の正義とはどこに行った!!」
「真実とは誠わからぬもの。かわいいこそ正義でございます。我が敬愛する女神様」

 夜が更けてゆく。
 混沌たる酒場に夜が更けてゆく。
 そして俺は明日も仕事。はぁ、そろそろ帰るか。姉ちゃんの相手もしなくて良さそうだ。

 しかし勿体無い。実に残念な美人さんだった。

[了]

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