※この物語はフィクションであり、実在の人物・事件などには一切関係がありません。
※オルタネイティヴ世界線とは異なる確率時空でのストーリーです。
※参考文献 「MUV-LUV ALTERNATIVE INTEGRAL WORKS」及び「シュヴァルツェスマーケン 殉教者たち」
※©Muv-Luv: The Answer
1992年03月14日 満洲帝国・旅順港沖
部屋にしつらえた鏡を見る。
身長は150cm程度。肩で切りそろえた黒髪と黒い瞳。前髪は眉の上で揃えている。
顔色に異常なし。揺れる割には気分は悪くない。
ひとつ残念なのは、豊かでは無い胸。
いや、全体的にスレンダーな体格。
これはまだ12歳だからと言う事にしておきたいところ。これからの成長に期待、だ。
今日も問題なしだ。
窓から外を見る。先程旅順港を出たばかり。まだ港の施設が見える位の距離だ。
今や艦上のの人となった私、愛新覚羅 遙春。
日本への留学のためにわざわざ海軍の巡洋艦 鎮海が動員されているのだ。
「大仰な」と思わなくも無いが、国の威信と言う奴だろう。断るのも海軍に悪い。
巡洋艦 鎮海は、日本帝国海軍より戦後払い下げられた高雄級重巡洋艦一番艦の高雄を近代化改修したものである。
対空火器の除去、そして何より電子化による運用要員の削減。
かつて日本海軍の重巡は英国により「餓狼のようだ」と揶揄されたと言う。
その頃と違い、運用人員が減ったため居住空間にはかなり余裕を持たせられている。
本当は満洲帝国海軍の総旗艦である戦艦海威を、と言う話もあった。
しかし強力な対地砲撃能力を持つ戦艦は沿岸防衛に必須だ。
従って今回、鎮海の出番となった訳である。
私は生まれてこの方、海を見た事がない。今回の旅で初めて海を見た。
船酔いが心配だったが、幸いにして天候は良好。揺れもほとんど無い。
……だが同行している廖 玲花は船に乗るなり気分を悪くして部屋に籠もってしまっているが。
廖 玲花は16歳。今回お付きとして同行して貰っている。工学系の分野が得意で、衛士になれなくても整備兵にはなれると思われる。
漢族の生まれで、幼少の時より友人の様に接している相手だ。
成長するにつれて、体つきが大人のそれになっていった。何故私はああならないのだ!
……他人と比較しても仕方無い。ただ、船酔いには弱そうだ。出港して直ぐに気分が悪くなったらしい。
玲花の調子を見ていると、どうやら私は幸いにして船酔い耐性があるらしいのだ。
私は艦橋に移動する。戦闘艦橋では無く、平時の艦橋だ。
そこには艦橋要員と艦長が待っていた。
「殿下、いかがですかな海は? 内陸の平原とはまた違った味わいでしょう」
鎮海艦長、曹 伊衛上校(=大佐に相当)が話しかけてくる。
「はい、大変素晴らしいです。ありがとうございます。
海軍も大変なんでしょう? こんな時に私の送迎なんて」
「いえ殿下。異星起源種共はまだ我が帝国領まで到達しておりません。故に海軍はまだ渤海湾の哨戒とソナー敷設ぐらいしか仕事がありません。……ただし陸軍は大陸西部戦線で大分損耗しているとはうかがっております。守るべき女性まで戦場に出さざるを得ない状況を考えれば、まだ海軍はましな方です」
「北京も時間の問題とは聞いております。統一中華戦線の両国も内部では勢力争いが凄まじいとか。こんな時でも人間は協力出来ないのですね……」
「我が国も他人事ではありませんぞ。実際に国土が戦場になったとき、駐満美軍はまともに守ってくれるのでしょうか。……失礼、一軍人が国事に口を挟むべきではありませんでした。聞き流してください、殿下」
「いえ、私が余計な事を言いました。気にしないでください、艦長」
曹艦長が続ける。
「学校を卒業なさったら、軍への所属を希望されているとうかがっております、殿下。皇女ともあろう殿下が戦場で命を賭けるのは甚だ遺憾、と小官は思うのですが」
「私はただ守られているだけで終わりたくないのですよ、艦長。それに国の一大事に貴族が国家の為に命を賭けずにどうします。私は日系人の家庭教師にそう教えられてきました。此度の訪日では、私にどこまで出来るのかを見極めたく思います。半分は私も我が儘なのですよ、艦長」
「それはそれは。是非日本人達に目にもの見せてやってください。殿下ならきっと出来ます」
「では、私は私室に戻ります。ありがとう、艦長」
艦橋を出てあてがわれた私室へ戻る。日本帝国海軍阪神基地までは3日の旅程だ。
この時期日本帝国の学校ではまだ春休み期間。
到着後には衛士の適性試験もあると聞く。もし、適性があれば――国民を直接守れる力を手に入れる事が出来るかもしれない。
遙春、持てる全力を出してみるのよ。私は、誰にも聞こえないようつぶやいた。
※次回の更新は01月01日です。
次:M-M第二話
投稿者プロフィール
- サークル幻色灯代表にして雑用係。
専門はプログラミング。趣味はTRPGとPCゲーム全般。
読書は手当たり次第に読むタイプ。本棚がカオス。
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