※この物語はフィクションであり、実在の人物・事件などには一切関係がありません。
※オルタネイティヴ世界線とは異なる確率時空でのストーリーです。
※参考文献 「MUV-LUV ALTERNATIVE INTEGRAL WORKS」及び「シュヴァルツェスマーケン 殉教者たち」
※©Muv-Luv: The Answer
1992年03月17日 日本帝国・海軍阪神基地
阪神基地に到着すると、黒山の人だかりだった。
海軍や民間人総出で、私を出迎えてくれているらしい。
我が帝国の国旗と日本の国旗が大仰に掲げられ、「日満一体」「六族協和万歳」などのスローガンまで書かれたボードが見える。
事前の打ち合わせによれば、日本の五摂家を代表して崇宰家の御曹司が出迎えると聞いた。
私はぐったりした廖玲花を支えながら、鎮海のタラップを降りる。
陸地に降り立ったとき、大きな歓声が上がった。
どうやら、私は歓迎されているらしい。少し安心だ。
玲花を駆けつけてきた救護員に任せ、船着き場から歓迎式典の会場へ向かう。
式典の壇上には大礼服を着た少年が待っていた。
「ようこそ日本帝国へ! 皇女殿下、今回お迎えの大任を仰せつかった崇宰七生です」
そう言って右手を出してくる。握手を求めているのだろう。
私は手を握り返し答える。
「満洲帝国皇女、愛新覚羅遙春です。この度は歓迎誠にありがとうございます」
壇の隅に居たアナウンサーが何か言っているが、私の耳には入ってこない。
群衆の歓呼の声にかき消されているからだ。
「皇女殿下千歳(注:万歳は基本皇帝にしか使われない)! 日本帝国万歳!」
こだまする万歳三唱の声が耳に残った。
「皇女殿下、お車を用意してあります。帝都京都まではこちらで」
崇宰七生が車まで案内してくれる。
赤絨毯の上を歩き、黒塗りの立派な車まで移動した。
日本製の高級車だ。エンブレムから察するに日本最大手の豊多製であろう。
乗り込むと横に当然のように崇宰七生が乗り込んでくる。
私は車内で群衆に手を振りながら、五色旗と日の丸の小旗を精一杯振る観衆に応えた。
車はやがて基地を離れ、警官隊の先導の下京都への道を進み始めた。
旗を振る群衆が私の視界から次々と取り過ぎて行く。
車窓から見える日本国民の表情は老若男女問わず穏やかだ。
まだ戦線が海の向こうということで、この未曾有の危機に実感がわかないのだろう。
「崇宰殿、確かに日本は前線より離れております。しかし少々弛んでいるのではありませんか?」
「皇女殿下、それは少々無理な注文です。先の大戦ですら本土への影響はほとんど無く、
実戦を想像するのは些か難しい。前線帰りの兵達は違いましょうが、一般国民に
それを要求するのは少々無理かと僕は思います」
「しかし! 既に大陸では何億もの民が故郷を失い、命すら失っているのですよ!」
「殿下、それ以上は我が帝国への愚弄と認識いたします」
「……失礼、少々気がたっておりました。謝罪いたします」
「ご理解いただければ問題ありません」
どうにもこの崇宰七生と言う少年は気が合わない。
たぶん私より若干年上だろうが、慇懃無礼にも思える態度を隠そうともしていないのだ。
顔は悪く無い……恐らく10人中9人は美形と言うだろう。背も170cm以上。
大礼服の上からでも引き締まった体躯が分かる。
年頃の女性なら放ってはおかないのは間違いない。
そう私が考え事をしていると、七生は悪びれもせずに続けて言った。
「殿下、これから陸軍幼年学校に入校される予定ですよね? 僕は斯衛の衛士養成校におります。
もし殿下に衛士適正があれば、恐らく斯衛の養成校へ編入となるでしょう。その時はまた訓練校でお会いしたいものですね」
うへえ、と言う気持ちになった。
学校でもこいつと顔をあわせることになるのか……。
「どうしました? 殿下」
「……いえ、何でも。その時は宜しくお願いします」
琵琶湖運河を車窓に眺めながら、京都へは平穏無事に到着した。
車を降り、陸軍幼年学校の門をくぐる。
さあ、これから私の新しい一歩が始まる。頑張らねば。
同日 帝都京都 陸軍幼年学校
年齢のことはさておき、将来的に士官となるべく教育される陸軍幼年学校へ私は編入することになっている。
学内を見渡すと、まだ日本は最前線ではないため我が帝国と比べて男子が残っているようだ。
校長室へ案内され、編入の挨拶をする事になった。
後ろに玲花が控えている。陸に上がって船酔いはすっかり良くなったようだ。
「本日より編入する事になりました、満洲帝国皇女 愛新覚羅遙春です!」
「殿下、よくぞおいでくださいました。我が校は貴女を歓迎いたします」
「ありがとうございます」
「そこに座られてください。これからやって頂く事をご説明いたします。
……まずは衛士の適性試験です。ご存じのように、衛士適正がある人間は非常に少ない。
一人でも多く衛士を選び出すことが我が国でも最優先事項です。時に皇女殿下、武道は何か嗜まれているので?」
「家庭教師に習った剣道の基礎くらいです」
「結構結構。我が国の戦術歩行戦闘機は格闘戦も出来るように作られております。もし適正がおありなら皇女殿下には我が国の戦術機を使って頂けると助かります」
「……分かりました。まず何をやればよろしいですか?」
「試験は明朝9時より開始します。体力測定とシミュレータでの三次元機動テストなど、ほぼ一日使う事になります。今日はもう休まれた方が良いですね。荷解きもあるでしょうし。資料はこちらです」
明日の試験内容が入った電子端末を渡される。
「分かりました。それでは失礼いたします」
「お部屋に案内しましょう。――当番!」
校長の声に応じて、一人の少年が入室してきた。年の頃は12,3位だろうか。
「皇女殿下達をお部屋に案内して差し上げろ」
「かしこまりました。それでは殿下、こちらへ」
1992年03月18日 帝都京都 陸軍幼年学校
訓練生用の衛士強化服を着用させられて、私は戦術機シミュレータの前にいた。
それにしてもこの強化服、胸が透けてるんだけど……。
一緒に試験を受ける玲花も恥ずかしそうにしている。
「それでは、これよりシミュレータ試験を開始します。二人とも搭乗してください」
――2時間後――
「お疲れ様でした。結果は明日に通達します」
私は特に問題はなかったが、玲花は揺れに酔ってぐったりしている。
鎮海でもそうだったが彼女は揺れには弱いようだ。
戦術機の適正とは即ち、機体の揺れに体が耐えられるかどうかと聞いた事がある。
残念ながら彼女は衛士適正は無かったのだろう。
そして翌日、私は適正ありと認められた。4月1日付で斯衛軍衛士養成学校へ編入だそうだ。
玲花はやはり適正なし。とは言え、お付きが別の学校というわけにもいかないので、
形式上同じ学校に編入となった。整備兵として訓練を受けることになる。
機体を維持するのには整備が大事だ。
元より工学が得意なこともあるので優秀な整備兵になれるだろう。
少し、誇らしくなった。
次:M-M第三話
投稿者プロフィール
- サークル幻色灯代表にして雑用係。
専門はプログラミング。趣味はTRPGとPCゲーム全般。
読書は手当たり次第に読むタイプ。本棚がカオス。
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