※この物語はフィクションであり、実在の人物・事件などには一切関係がありません。
※オルタネイティヴ世界線とは異なる確率時空でのストーリーです。
※参考文献 「MUV-LUV ALTERNATIVE INTEGRAL WORKS」及び「シュヴァルツェスマーケン 殉教者たち」
※©Muv-Luv: The Answer
1994年01月01日 満洲帝国首都・新京 皇帝執務室
国民への顔見せが終わり、やっと執務室で一息つけた。
温かい茶が用意されていたのでそれに口を付ける。
手元には陸軍の編制表が置かれていたので、それを読む。
戦術機大隊――稼働機6機。予備機が昨年到着した40機と保守点検用の部品が多数。
陸軍師団――15個師団中、定足数を満たしているのは無し。現状の人員は定数のほぼ3割。
機械化部隊――戦車は美国のM1エイブラムスが主力だが、これも定数の2割。
砲兵師団――辛うじて7割を満たしている。
満鉄の装甲列車――全て健在。必要があれば何時でも動員可能。
目を覆わんばかりの惨状だ。
陸の兵力はほぼ全滅では無いか!
海軍は……全艦艇全て健在。海兵隊も温存中。
それに加えて、美国第七艦隊が旅順に停泊中だ。
一応我が帝国とは安保条約を結んでいるので、いざという時に使えるのだろうが……。
駐満美軍は……と資料を読もうとしたところで、執務室のドアがノックされる。
「誰か」
「アメリカ合衆国軍事顧問団団長、ジョージ・マクミランであります」
早速美国のお出ましか。
「入ってください」
「失礼します、陛下。まずはご即位をお慶び申し上げます」
「座ってください。どうせ良い話ではないのでしょう?」
「ありがとうございます。では――」
ジョージは応接椅子に座った。
名前からしてアイリッシュ系か?
「それで、話とは?」
「日本帝国より援助されたF-4Jについてです。何故ステイツを頼りませんでしたか」
「……その話なら、当の美国が『出せる機体が無い』と回答したと聞いていますが?」
「『現在在庫がございません』と言う話ですよ。何故もう少し待てなかったのですか。ステイツの生産力があれば、直ぐに用意して見せますのに」
「団長はご存じかと思うが、もはや我が帝国の目と鼻の先にBETAが迫っています。猶予は半年もありません。なのに悠長に待っていられるとお思いか? 戦術機部隊の錬成にかかる時間も考えるともっと時間は無いのです。日本帝国の好意に頼るのも無理は無いかと思うのですが?」
この辺の話、実は私は全く把握していない。
何せ12/26日に母上が崩御してから、慌てて帰国したのだ。
恐らく顧問団の日本閥が無理を押し通したのだと思うが……。
「陛下の御座機まで日本機になっているではありませんか! ステイツの最新機F-18をご用意しましたのに」
「それについても申し訳ないが私は射撃が得意ではありません。近接戦を得意とする日本機の方がありがたいのです」
「――日本人は誰が主人なのか分かっていないようですな」
あからさまに蔑む表情に変わる。
「ともかく、即位の手続きが全て終われば直ぐに訓練に入る予定です。美国の協力も頼みます」
「分かりました。ですが陛下……勿論嚮導要員としてステイツの精兵から何人か部隊に加わらせてもらいますよ。明日、人員を選抜してリストを出します。これはお願いでは無く顧問団からの正式な命令です」
「分かりました。用事はそれだけですか」
「新しい皇帝の顔を拝見しに来ただけです。お気になさらずに。それでは」
ジョージはそのまま去って行った。
また厄介な問題の種を蒔かれた気もするが、今は部隊の錬成が最優先だ。
曲者揃いで無ければ良しとしよう。
1994年01月03日 満洲帝国首都・新京郊外 陸軍基地
満洲帝国陸軍の正装をした搭乗員達を閲兵する。
戦場の生き残り以外は訓練を開始したばかりの新兵と言っても良い。
ただし、戦時特例として全員”少尉”任官している。
そして私は立場上”大元帥”の階級になるのだ。
「大元帥陛下に――敬礼!」
副官として美国から派遣されたクリフォード・ハンプトン中校(=中佐に相当)が号令を掛ける。
ざっ、と全員が敬礼で応えた。
……若干ぎこちない者も居たが、それは私も同じだ。
「では、早速であるが大元帥陛下からのお言葉を賜る。総員、傾注!」
「――諸君らは栄えある我が満洲帝国陸軍の戦術機大隊、”威徳”の一員となった。我が帝国の為、7000万国民の為、その身命を賭して訓練に励んでもらいたい。以上だ!」
「総員、解散! ……陛下、ありがとうございました」
「気を使わずとも良いのです。戦歴は中校の方が長いですから。補佐をよろしくお願いします」
1994年01月03日 満洲帝国首都・新京 皇帝執務室
閲兵を終えた夜。執務室で決裁する書類を整理していた時だ。
執務室の扉をノックするものがいる。
――誰だ、今日はもう面会の予定は入っていないはずだが。
「誰か」
「陛下、僕ですよ。崇宰七生です」
……は? 何故奴が新京にいるのだ。
「入ってよろしいですか陛下」
「あ、ああ。入ってよろしい」
部屋に現れたのは、まごうことなき崇宰七生だった。
見間違いようもない。
「正式な着任の挨拶は明日なのですが、驚かせようと思いましてね」
「ほう。と言う事は、日本帝国からの嚮導要員に君が入っているのだな」
「僕はまだ実機搭乗時間が100時間にも満たない新兵ですよ。どちらかと言うと、
『日本帝国は満洲帝国を見捨てない』と言う意味で、五摂家の人間が入っていた方が良いだろうとお歴々が判断しましてね。陛下と面識のある僕が選ばれた訳です。八男ですし、仮に戦死しても痛くないと言うのもありますけどね」
「またずいぶんと生臭い話だな……」
「この家に生まれたからには仕方無いでしょう。勿論、乗機も込みで参りました」
「それは助かる。我が帝国には”瑞鶴”の運用実績が無いからな。整備も込みで技術提供してもらえればとても助かる」
「陛下の”瑞鶴”も整備済です。明日から実機訓練との事。僕も微力ながらお手伝いします」
「助かる。ありがとう」
私は自然と頭が下がっていた。
日系家庭教師に礼儀作法を教え込まれたからだろうか。
「そんな、頭を下げなくても良いのに」
「今、我が帝国の状況は分かっていると思う。下げて減る物ではないし、こう言う時に礼儀を尽くさずしてどうするというのか。本当にありがとう」
「陛下……もう遅いですし、僕はこれで失礼します。明日の訓練で会いましょう」
そう言うと、七生は退出して行った。
何故だろう、久しぶりにとても温かい気分になった。
1994年01月04日 満洲帝国首都・新京郊外空域
「威徳02より各機。アロー・ヘッド1で飛行せよ。高度は低く。匍匐飛行だ」
クリフォード中校が指示を出す。
形ばかりの大隊長とは言え、私はまだ飛行しながら指示を出すまで出来ないからだ。
私も含めてだが、任官したばかりの新品少尉では飛行の制御もぎこちない。
「威徳08、高度が高い! レーザーで灼かれたいか!」
「威徳08、ラ、ラジャー」
慌てて威徳08が高度を下げる。
下げすぎて地面に激突することは無かったので安心する。
「各機、続いてアロー・ヘッド2へ陣形を変更せよ! 高度はそのまま」
各機が陣形を変更する。先頭は本来ならば威徳01である私がなるべきだが、今回は最後尾に付いている。
指揮官先頭の原則に則れば模範ではないのだが、立場上仕方ない。
私は戦場でも簡単に死ぬことは許されていないのだ。
「良し! 現状の陣形のまま基地へ帰還する。ひよっこ共にしては上出来だ!」
どうやら、我が大隊の練度は最低限保証されているようだ。
ふと、秘匿通信回線からのコールが鳴る。
コールサインは威徳03。崇宰七生の物だ。
「やあ陛下。ご一緒に訓練できて光栄です。初めての”瑞鶴”はいかがですか」
「訓練中におしゃべりとは、随分余裕があるな君は。私は飛行制御で手一杯だ」
「”撃震”とはかなり変わっていますからね。それに陛下は実機訓練を途中で繰り上げざるを得なかった。そうですね?」
「その通りだ。そこまで見抜かれていてはぐうの音も出ない。しかし……少し聞きたいのだが」
「何です陛下」
「君が部隊のNo.3に推されたのは、やはり日本帝国閥の力か? 本当のところを聞かせて欲しい」
「ご推察の通りです。満洲帝国軍事顧問団の日本閥がそうとう無理して押し込みました。米帝はかなりお冠でしたね。実戦経験もろくに無い新兵をNo.3とは、って」
「そうなのか。苦労を掛けた」
「まあ、陛下と年の近い『かつての学友が日本から馳せ参じ、満洲帝国戦術機部隊の再建の助けに』ってストーリーは、色々受けるんですよ。上手く行ったら、満映のプロパガンダフィルムになるんじゃありませんか」
満映――満洲映画協会――か。かつて日本の肝いりで作られた国策映画会社だ。
戦後も実質我が帝国の国策映画会社として名を馳せている。
美国のハリウッドからも人材が流入し、今や国際的にも有名になっているのだ。
「もちろん、陛下という格好の人材が居てこそのフィルムですが」
「買いかぶりすぎだ。私はそれほど美人でも無ければ演技が出来るわけでもない」
「……皇帝役を務めるだけで十分ではありませんか。陛下はただ陛下であるだけで満洲帝国、ひいては東亜の民衆を奮い立たせるのですよ。もっと自信を持ってください」
「そうか、褒め言葉と受け取っておく」
「あまりおしゃべりが過ぎるとクリフォード中校に叱られますので、今日はこの辺で。それでは」
通信が切れる。
私は私であれば良いのか……。遙春、しっかりするのよ。
※次回の更新は09月01日を予定しています。
次:M-M第十話
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- サークル幻色灯代表にして雑用係。
専門はプログラミング。趣味はTRPGとPCゲーム全般。
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